- 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は、大学の海洋学部で深海魚を研究したというが、長野では知る人ぞ知る「ワインのお店」でもあるそうだ。
- (株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫
30年も営業をしていると、窓口をしていただいた方とのお付き合いも、長くなる。他社に転職されても、お付き合いが続く場合もある。佐藤さんも、そんなお一人だ。時々、連絡を取りあいお目にかかるが、ある時、「最近ブログ、更新してないですね。楽しみにしているのに…」とおっしゃる。確かに3、4か月ほどアップしていなかった時期があった。そうか、楽しみにしている人もいてくれるんだと知り、以来書くことが励みになった。
その佐藤さんから、ご自分の友人が開業しているとんかつ屋「一とく」さんの話を以前お聞きしていて、一度ご一緒する約束をしていたのだが、過日、ようやく実現した。3代続くそのお店は、長野ではよく知られたとんかつ屋さんなのだが、夜になると、ワインバーになることは、あまり知られていないのではないか。
待ち合わせの時間より早く店の前についたが、やはりワインバーだとお聞きしていなければ戸惑ってしまうような、とてもモダンな店構えだ。佐藤さんの到着を待って、早速ワインをお願いした。日本酒は少々知識があるが、ワインはまったくわからないので、店主のおすすめに従うしかない。
選んでいただいたのが、「ブルゴーニュ・ショーム・ド・ペリエール」 という白ワインだ。「ワインの名前は、ぶどう畑の地名を指すのです。その畑を細かく限定するに従って、おいしい、つまり価値のあるワインになります」という。なるほど、わかりやすい。「お出ししたワインは、特級指定の畑で作られたぶどうを使っていますが、その畑に別の土地の土を混ぜてしまっていたことがわかり、ランクが下がって売りに出されました。ぶどうの出来は同じですから、お値打ちなワインです。6本手にいれて、残り2本になりました」と、教えていただいた。
佐藤さんとは、高校の同級生で無二の親友だという。「彼は、とんかつやの跡取りなのに、海洋学部に進んだ、ちょっと変わったやつです」と佐藤さんが軽口を叩くと、「研究は、深海魚でした」と、間合いよく店主が応じる。そのやり取りがとても心地よい。
ワインの取り合わせに、キッシュがでてきたので驚いた。「松本の信大の近くに、美味しいキッシュのお店があるのは、ご存知ですか?」と、うちのメンバーに教えてもらったことを受け売りすると、「知っています。食べたことはありませんが」と応じてくれた。
もう一本開けることになり、開いてくれたワインメニューを見ると、2000 円から9 万円ぐらいまで並んでいる。「これなど、どうでしょう。私も飲みたいので、これにしましょう」と選んでくれたのが、有名な富豪のロスチャイルド家の家紋がラベルに刻印された赤ワインだ。それから続くご説明は、少々酔いもまわり、正確に覚えきれないほど盛りだくさんなので、割愛させていただく。
初めてのお店なのに、佐藤さんのアテンドと店主の飾らないお人柄で、すっかり20年来の常連のような心温まるお持てなしをいただき、ワインも、美味しい料理も、本当に、大満足のひと時だった。もちろん最後は、3代続いた伝統のソースがのったとんかつでしめた。
くせになりそうなお店がまた一つふえてしまったが、いいんでしょうか、佐藤さん!
平成23年5月9日
※写真の大きなワイングラスは、香りのいいブルゴーニュ・ワインを飲むときに使うという。日本酒の酒器とは、一味違う心得だ。