home  → キャリアの隠れ家  → 第37回  また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は、大学の海洋学部で深海魚を研究したというが、
      長野では知る人ぞ知る「ワインのお店」でもあるそうだ。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は、大学の海洋学部で深海魚を研究したというが、長野では知る人ぞ知る「ワインのお店」でもあるそうだ。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫


  30年も営業をしていると、窓口をしていただいた方とのお付き合いも、長くなる。他社に転職されても、お付き合いが続く場合もある。佐藤さんも、そんなお一人だ。時々、連絡を取りあいお目にかかるが、ある時、「最近ブログ、更新してないですね。楽しみにしているのに…」とおっしゃる。確かに3、4か月ほどアップしていなかった時期があった。そうか、楽しみにしている人もいてくれるんだと知り、以来書くことが励みになった。

  その佐藤さんから、ご自分の友人が開業しているとんかつ屋「一とく」さんの話を以前お聞きしていて、一度ご一緒する約束をしていたのだが、過日、ようやく実現した。3代続くそのお店は、長野ではよく知られたとんかつ屋さんなのだが、夜になると、ワインバーになることは、あまり知られていないのではないか。

  待ち合わせの時間より早く店の前についたが、やはりワインバーだとお聞きしていなければ戸惑ってしまうような、とてもモダンな店構えだ。佐藤さんの到着を待って、早速ワインをお願いした。日本酒は少々知識があるが、ワインはまったくわからないので、店主のおすすめに従うしかない。

  選んでいただいたのが、「ブルゴーニュ・ショーム・ド・ペリエール」 という白ワインだ。「ワインの名前は、ぶどう畑の地名を指すのです。その畑を細かく限定するに従って、おいしい、つまり価値のあるワインになります」という。なるほど、わかりやすい。「お出ししたワインは、特級指定の畑で作られたぶどうを使っていますが、その畑に別の土地の土を混ぜてしまっていたことがわかり、ランクが下がって売りに出されました。ぶどうの出来は同じですから、お値打ちなワインです。6本手にいれて、残り2本になりました」と、教えていただいた。

  佐藤さんとは、高校の同級生で無二の親友だという。「彼は、とんかつやの跡取りなのに、海洋学部に進んだ、ちょっと変わったやつです」と佐藤さんが軽口を叩くと、「研究は、深海魚でした」と、間合いよく店主が応じる。そのやり取りがとても心地よい。

  ワインの取り合わせに、キッシュがでてきたので驚いた。「松本の信大の近くに、美味しいキッシュのお店があるのは、ご存知ですか?」と、うちのメンバーに教えてもらったことを受け売りすると、「知っています。食べたことはありませんが」と応じてくれた。

  もう一本開けることになり、開いてくれたワインメニューを見ると、2000 円から9 万円ぐらいまで並んでいる。「これなど、どうでしょう。私も飲みたいので、これにしましょう」と選んでくれたのが、有名な富豪のロスチャイルド家の家紋がラベルに刻印された赤ワインだ。それから続くご説明は、少々酔いもまわり、正確に覚えきれないほど盛りだくさんなので、割愛させていただく。

  初めてのお店なのに、佐藤さんのアテンドと店主の飾らないお人柄で、すっかり20年来の常連のような心温まるお持てなしをいただき、ワインも、美味しい料理も、本当に、大満足のひと時だった。もちろん最後は、3代続いた伝統のソースがのったとんかつでしめた。

  くせになりそうなお店がまた一つふえてしまったが、いいんでしょうか、佐藤さん!

平成23年5月9日

※写真の大きなワイングラスは、香りのいいブルゴーニュ・ワインを飲むときに使うという。日本酒の酒器とは、一味違う心得だ。