home  → キャリアの隠れ家  → 第31回  小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる。
      陶磁器論から始まって、やがて会社や組織の課題、情報ネットワークの問題点、そして女性論まで、「街場の人生塾」となるキャリアの隠れ家だ。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる。 陶磁器論から始まって、やがて会社や組織の課題、情報ネットワークの問題点、そして女性論まで、「街場の人生塾」となるキャリアの隠れ家だ。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫

第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる… 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…


  観光客で賑わう小布施の街中、国道403号線と交差し、東側に延びる一筋の小道、昔は谷街道の脇道だった古道だというが、今は、「ギヤマン通り」とおしゃれな名前がついて、モダンなデザインのフラッグが風にゆれる街灯が続く。

  この街灯整備の推進者のお一人が、「古陶磁コレクション了庵」のご主人中原さんだ。了庵の魅力は、なんといっても中原さんの話題の豊富さ、その慧眼にある。ご専門の古陶磁器の楽しみ方はもちろんなのだが、現役時代の仕事のこと(日本を代表する名門企業の幹部社員だったそうだ)、そこを少し早めに辞められて、何の縁もなかった小布施で、平成8年に「古陶磁器コレクションの展示と販売」のギャラリー開業にいたる経過、そこから敷衍される人間観や人生観など、奥様がサイフォンで煎れてくれるおいしいコーヒーをいただきながら、あっという間に2、3時間が過ぎる。

  初めて了庵に行ったのは、5、6年ほど前だったか。古陶磁器の展示コーナーでガイドされる中原さんのお話やお人柄に魅了され、これまでの私の骨董知識の浅はかさを呪いながら帰宅した。そして、一人でお聞きするのはもったいないと思いなおし、翌週、美術好きの同僚を無理やり誘って、再訪したほどだ。

  中原さんの「古陶磁器」の解説は、小学生でも体感的にわかるようにやさしく導かれていくが、しかし、その説得力には、凄みさえ漂う。いわゆる骨董店主風の「目利き話」とは使われる「言語」がまったく違うし、そうかといって、小難しい教科書的でもなく、「街場の古陶磁器談義」といった趣なのだが、それが刺激に満ち満ちて、社会観、企業観、人間観へと、縦横無尽に広がる。そんな庵主のお人柄同様に気さくな雰囲気のお店だが、展示されているコレクションの中には、全国でも珍しい「初期伊万里」もあり、それは国の重要文化財クラスの逸品だというのだから、恐れ入る。(「古伊万里」ではなく、それより以前の「初期伊万里」に日本の陶磁器の画期的イノベーションがあるということも、中原さんの話で初めて知った)

  ようやく春めいた陽気に誘われ、先の休日、今年初めてお邪魔した。相変わらずのお元気ぶりで、陶磁器の話から最後は思いがけず、女性論になった。「女性は、お皿なんです。女性に対するほめ言葉に『器量よし』ってあるでしょう。器の大きさをほめているのです。男の人生は、出会った女性の器量の大きさに左右されますね。大きなお皿の上で遊ばせてもらっている男は、幸せです。でも、残飯になったら、すぐに捨てられてしまうので気をつけなければなりません。そうそう、最近の女性は、残飯だけでなく、お皿ごと放り投げてしまうようになってしまった。怖い時代になりましたね」という。なるほど、人間の尊厳がどんどん軽くなっていく、今の時代を言い当てて、妙だ。

  さて、家にもどり、我が女房殿の顔色を伺いながら、彼女の器の大きさを考えてみた。結婚して30年を超えるが、正直、まだよくわからない。特別小さいと不満はないが、どこまで大きいのかもわからない。とりあえずは、中原さんにご心配かけないように、「残飯」にだけはならないようにしなければ…

「了庵」のホームページがおもしろい!


平成23年3月28日