キャリアの隠れ家
第31回
小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる。
陶磁器論から始まって、やがて会社や組織の課題、情報ネットワークの問題点、そして女性論まで、「街場の人生塾」となるキャリアの隠れ家だ。
観光客で賑わう小布施の街中、国道403号線と交差し、東側に延びる一筋の小道、昔は谷街道の脇道だった古道だというが、今は、「ギヤマン通り」とおしゃれな名前がついて、モダンなデザインのフラッグが風にゆれる街灯が続く。
この街灯整備の推進者のお一人が、「古陶磁コレクション了庵」のご主人中原さんだ。了庵の魅力は、なんといっても中原さんの話題の豊富さ、その慧眼にある。ご専門の古陶磁器の楽しみ方はもちろんなのだが、現役時代の仕事のこと(日本を代表する名門企業の幹部社員だったそうだ)、そこを少し早めに辞められて、何の縁もなかった小布施で、平成8年に「古陶磁器コレクションの展示と販売」のギャラリー開業にいたる経過、そこから敷衍される人間観や人生観など、奥様がサイフォンで煎れてくれるおいしいコーヒーをいただきながら、あっという間に2、3時間が過ぎる。
初めて了庵に行ったのは、5、6年ほど前だったか。古陶磁器の展示コーナーでガイドされる中原さんのお話やお人柄に魅了され、これまでの私の骨董知識の浅はかさを呪いながら帰宅した。そして、一人でお聞きするのはもったいないと思いなおし、翌週、美術好きの同僚を無理やり誘って、再訪したほどだ。
中原さんの「古陶磁器」の解説は、小学生でも体感的にわかるようにやさしく導かれていくが、しかし、その説得力には、凄みさえ漂う。いわゆる骨董店主風の「目利き話」とは使われる「言語」がまったく違うし、そうかといって、小難しい教科書的でもなく、「街場の古陶磁器談義」といった趣なのだが、それが刺激に満ち満ちて、社会観、企業観、人間観へと、縦横無尽に広がる。そんな庵主のお人柄同様に気さくな雰囲気のお店だが、展示されているコレクションの中には、全国でも珍しい「初期伊万里」もあり、それは国の重要文化財クラスの逸品だというのだから、恐れ入る。(「古伊万里」ではなく、それより以前の「初期伊万里」に日本の陶磁器の画期的イノベーションがあるということも、中原さんの話で初めて知った)
ようやく春めいた陽気に誘われ、先の休日、今年初めてお邪魔した。相変わらずのお元気ぶりで、陶磁器の話から最後は思いがけず、女性論になった。「女性は、お皿なんです。女性に対するほめ言葉に『器量よし』ってあるでしょう。器の大きさをほめているのです。男の人生は、出会った女性の器量の大きさに左右されますね。大きなお皿の上で遊ばせてもらっている男は、幸せです。でも、残飯になったら、すぐに捨てられてしまうので気をつけなければなりません。そうそう、最近の女性は、残飯だけでなく、お皿ごと放り投げてしまうようになってしまった。怖い時代になりましたね」という。なるほど、人間の尊厳がどんどん軽くなっていく、今の時代を言い当てて、妙だ。
さて、家にもどり、我が女房殿の顔色を伺いながら、彼女の器の大きさを考えてみた。結婚して30年を超えるが、正直、まだよくわからない。特別小さいと不満はないが、どこまで大きいのかもわからない。とりあえずは、中原さんにご心配かけないように、「残飯」にだけはならないようにしなければ…
「了庵」のホームページがおもしろい!
平成23年3月28日