home  → キャリアの隠れ家  → 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間。クラプトンの「枯葉」を聞きながら走るルートは、高速道路よりも、旧道の風情がふさわしい。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間。クラプトンの「枯葉」を聞きながら走るルートは、高速道路よりも、旧道の風情がふさわしい。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫

第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場、伊那仲仙寺を訪ねた。
 仕事などで長いこと車の移動が日常化されていると、現役を引退してからも、「スピード」が快感として大脳に蓄積されていて、家の中でじっとしていることが苦痛になると心理学系の本で読んだことがある。私は、長野にUターンしてから32歳で免許をとるという奥手だったのだが、以来30年、1年で4万キロ以上も走る経験を何年もしたので、きっとその症状があらわれるだろう。  
 15年ほど前、松本営業所の開設に携わった時、ちょうど高速道路が全県開通した当事で、奥の深い中南信地区を営業活動していた立場としては、高速道路を最大限に活用して東奔西走しなければならなかった。年間3万キロ以上走るのは、タクシーの運転手さん並と聞いたが、私自身は運転することにはさほど苦痛はなかった。  
 車中では、CDを聞いて過ごすことが多いが、やはり仕事のことが頭から離れない。大事なことを突然思い出し、ポストイットに殴り書きしながら走るのは、今でも同じだ。カウンセリングのご指導をいただいている先生を助手席にお乗せしたとき、「松井さんの前には、『お花畑』があるのね」とおっしゃった。メモした赤や黄色や青色のポストイットが、フロントパネルのあちこちに乱雑にはってある光景を見て、そう表現されたのだ。  
 今でも、相変わらず時間に追われ高速道路を走ることが多いが、先日、安曇野から伊那までの移動に少し時間の余裕があったので、国道を走ることにした。塩尻から辰野を経て伊那までの国道153号線は、宿場町や峠道の風情を楽しめる落ち着いたルートだ。流れるCDは、エリック・クラプトンのニューアルバムにした。クラプトンは、私より4歳上で、デビューして今年でちょうど40周年という。20代に憧れたニュージシャンの一人だった。ニューアルバムでは、年齢を重ねて磨かれ抑制の効いた渋い歌声の「枯葉」が最高。ちょうど紅葉の峠道にさしかかった頃、偶然に流れてきて、車窓を流れるひなびたまち並みとともに、私の感慨を誘った。「永ちゃんの『枯葉』もいいかも…」、などと、たわいもないことを思いながら、現役を引いたら、次の「アポ」など気にせず、若いころ聞いた音楽に包まれながら、のんびり国内一周の旅もいいな、と思った。  
 一人ではさみしい気がするが、かといって、女房を誘う勇気もない…。  
22年11月3日


次回は、11月下旬予定