- 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な情報源だ。テレビ番組にも、困難な時代を生き抜くための想像力を刺激する企画力が求められる。
- (株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫
昨年、NHK教育テレビで放映された「ハーバード白熱教室」が、ずいぶん話題になった。これもおもしろかったが、6、7年前頃からだったか、ニューヨークの、俳優や演出家を養成する「アクターズ・スタジオ」のインタビュー構成の授業が、はやりNHK教育で放送されていて、楽しみに見ていた。
インタビュアーはそのスクールの副学長で、登場する有名な俳優や監督にテンポよく鋭い質問を容赦なく浴びせる。お馴染みのスターたちは、スクリーン上の役柄とは違う素顔のたたずまいで、知的な人生観やウイットに富んだアドリブで受け応えし、会場をうめた未来のスターたちを魅了していた。
質問は、「10の質問」といわれ、誰に対しても共通だ。ご紹介すると、①好きな言葉は②嫌いな言葉は③気持ちを高揚させるものは④うんざりすることは⑤好きな音は⑥嫌いな音は⑦好きな悪態は⑧今の職業以外でやってみたい職業は⑨絶対にやりたくない職業は⑩天国に着いたとき神になんといわれたいか、である。採用面接の質問としてもとてもおもしろい切り口で、大学の職業論の授業で、「ネタ」にさせていただいたことを思い出す。
また、好きな女優のシガニー・ウィーバーやシャロン・ストーンが登場した時は、1時間の番組が短く感じられたものだ。とくに、シャロン・ストーンは、役柄もありセクシー女優といったイメージなのだが、素顔はまったく異なり、とても知的で頭の回転の速さに驚いた。(例の、足を組む大胆な座り方は、一緒だった…)
NHK教育テレビでは、他に「日曜美術館」をよく見る。私が見始めた頃のキャスターが誰だったか、なかなか思い出せないが…。(NHKのアナウンサーだったかもしれない)。つい最近までは、東大教授の姜尚中氏と高橋さん(こちらも、名前を思い出せず、すみません)という女性アナウンサーのコンビだった。現在は、音楽家の千住明さん、コンビを組むのは森田美由紀さんで、久しぶりに美しく聡明なお顔を拝見して、懐かしかった。千住明さんは、4、5年前だったと思うが、松本清張の有名な小説「砂の器」が現代風にテレビドラマ化された時の、確か、テーマ音楽の作曲家ではなかったと思う。(ピアノ演奏も?)主人公の絶望的なまでの孤独感が、切なく、悲しいピアノの旋律に見事に昇華されていて、作曲家のすごさを感じる名曲だった。
日曜美術館でも、たくさんの「出会い」があった。北御牧村(現在東御市)にある梅野美術館や、イギリスの陶芸家ルーシー・リーの存在も、この番組で知った。梅野美術館は、我が家から車で50分程度の距離にあり、さっそく出かけた。水上勉が終の住まいに選んだ穏やかな村の一角に建っていた。ルーシー・リーの器は、日本の陶芸のイメージとはまったく異なり、イギリス文化のプリンシプルがモダンに甦り、とても新鮮な感じがした。昨年、そのルーシー・リーの作品展が東京の美術館であると知ったが、残念ながら会期が短く、行けなかった。
最近では、「ピカソを捨てた女」と題された特集が秀逸だった。ピカソが「花の女」と呼び、40歳も年齢が離れていたにもかかわらず結婚したフランソワーズ・ジローの人生を紹介した番組で、ご本人のインタビューも見ごたえがあった。ジローは、10年ほどピカソと一緒に暮らし子どもも受けたが、結局ピカソの下を去った。出て行こうとするジローに、ピカソがいう。「どんな女だって、わしのような男から去って行こうとはしない。ここを出て行くことは、砂漠に行くようなものだ」。ジローは、答えた。「砂漠で生きる運命であるのなら、そこで生き抜いてみせます」と。(ピカソの科白、男の独占欲の塊で、ピカソの代わりに、反省…。)
民放関係者には申し訳ないが(同級生のKさん、ごめんなさい)、今はあまり民放局を見なくなっていることに気づいた。とくに震災の後は、顕著だ。昔は、おもしろがっていたバラエティ番組も、なぜか、今では、寒々しく思える。若者に人気の番組もたまには見ないと時代についていけないのかなとも思うのだが、この困難な時代をどう生きていけばいいのか、たくましい知性を育て、想像力を健全に刺激する企画が、今後はもっと必要ではないか。そうすれば、若者のテレビ離れ、団塊の世代の民放離れもなくなると思うのだが…
・本文は、NHKのホームページを参考にしました。
・写真は、たまたま通りがかった松本城お堀の桜並木。6分咲きだったが、とてもきれいだったので、車中から、おすそ分け。(4月15日)
平成23年4月25日