home  → キャリアの隠れ家  → 第35回  NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な情報源だ。
      テレビ番組にも、困難な時代を生き抜くための想像力を刺激する企画力が求められる。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な情報源だ。テレビ番組にも、困難な時代を生き抜くための想像力を刺激する企画力が求められる。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫


  昨年、NHK教育テレビで放映された「ハーバード白熱教室」が、ずいぶん話題になった。これもおもしろかったが、6、7年前頃からだったか、ニューヨークの、俳優や演出家を養成する「アクターズ・スタジオ」のインタビュー構成の授業が、はやりNHK教育で放送されていて、楽しみに見ていた。

  インタビュアーはそのスクールの副学長で、登場する有名な俳優や監督にテンポよく鋭い質問を容赦なく浴びせる。お馴染みのスターたちは、スクリーン上の役柄とは違う素顔のたたずまいで、知的な人生観やウイットに富んだアドリブで受け応えし、会場をうめた未来のスターたちを魅了していた。

  質問は、「10の質問」といわれ、誰に対しても共通だ。ご紹介すると、①好きな言葉は②嫌いな言葉は③気持ちを高揚させるものは④うんざりすることは⑤好きな音は⑥嫌いな音は⑦好きな悪態は⑧今の職業以外でやってみたい職業は⑨絶対にやりたくない職業は⑩天国に着いたとき神になんといわれたいか、である。採用面接の質問としてもとてもおもしろい切り口で、大学の職業論の授業で、「ネタ」にさせていただいたことを思い出す。

  また、好きな女優のシガニー・ウィーバーやシャロン・ストーンが登場した時は、1時間の番組が短く感じられたものだ。とくに、シャロン・ストーンは、役柄もありセクシー女優といったイメージなのだが、素顔はまったく異なり、とても知的で頭の回転の速さに驚いた。(例の、足を組む大胆な座り方は、一緒だった…)

  NHK教育テレビでは、他に「日曜美術館」をよく見る。私が見始めた頃のキャスターが誰だったか、なかなか思い出せないが…。(NHKのアナウンサーだったかもしれない)。つい最近までは、東大教授の姜尚中氏と高橋さん(こちらも、名前を思い出せず、すみません)という女性アナウンサーのコンビだった。現在は、音楽家の千住明さん、コンビを組むのは森田美由紀さんで、久しぶりに美しく聡明なお顔を拝見して、懐かしかった。千住明さんは、4、5年前だったと思うが、松本清張の有名な小説「砂の器」が現代風にテレビドラマ化された時の、確か、テーマ音楽の作曲家ではなかったと思う。(ピアノ演奏も?)主人公の絶望的なまでの孤独感が、切なく、悲しいピアノの旋律に見事に昇華されていて、作曲家のすごさを感じる名曲だった。

  日曜美術館でも、たくさんの「出会い」があった。北御牧村(現在東御市)にある梅野美術館や、イギリスの陶芸家ルーシー・リーの存在も、この番組で知った。梅野美術館は、我が家から車で50分程度の距離にあり、さっそく出かけた。水上勉が終の住まいに選んだ穏やかな村の一角に建っていた。ルーシー・リーの器は、日本の陶芸のイメージとはまったく異なり、イギリス文化のプリンシプルがモダンに甦り、とても新鮮な感じがした。昨年、そのルーシー・リーの作品展が東京の美術館であると知ったが、残念ながら会期が短く、行けなかった。

  最近では、「ピカソを捨てた女」と題された特集が秀逸だった。ピカソが「花の女」と呼び、40歳も年齢が離れていたにもかかわらず結婚したフランソワーズ・ジローの人生を紹介した番組で、ご本人のインタビューも見ごたえがあった。ジローは、10年ほどピカソと一緒に暮らし子どもも受けたが、結局ピカソの下を去った。出て行こうとするジローに、ピカソがいう。「どんな女だって、わしのような男から去って行こうとはしない。ここを出て行くことは、砂漠に行くようなものだ」。ジローは、答えた。「砂漠で生きる運命であるのなら、そこで生き抜いてみせます」と。(ピカソの科白、男の独占欲の塊で、ピカソの代わりに、反省…。)

  民放関係者には申し訳ないが(同級生のKさん、ごめんなさい)、今はあまり民放局を見なくなっていることに気づいた。とくに震災の後は、顕著だ。昔は、おもしろがっていたバラエティ番組も、なぜか、今では、寒々しく思える。若者に人気の番組もたまには見ないと時代についていけないのかなとも思うのだが、この困難な時代をどう生きていけばいいのか、たくましい知性を育て、想像力を健全に刺激する企画が、今後はもっと必要ではないか。そうすれば、若者のテレビ離れ、団塊の世代の民放離れもなくなると思うのだが…

・本文は、NHKのホームページを参考にしました。
・写真は、たまたま通りがかった松本城お堀の桜並木。6分咲きだったが、とてもきれいだったので、車中から、おすそ分け。(4月15日)

平成23年4月25日