- 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。ご主人からは、酒の飲み方から人生の愉しみ方まで、いろいろ教えてもらえる「大人の学校」でもある。
- (株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫
20年ほど前、地元のタウン情報として多くの読者に愛されていた「ながの情報」で、長野のおいしいお店を一冊にまとめた別冊をだすことになり、担当した。いわゆるグルメ本は、今では少しも珍しくないが、当時は、どこも手がけていない企画で、ベストセラーになった。
初めて「ながい」と出会ったのは、そのプレ取材で出かけたのがきっかけだった。ご主人の永井さんは申し訳なさそうに、「せっかくだけど、お断りしたい」という。理由をお聞きすると、「酒も、料理も、食器も、自分の気に入ったものだけしか置かないわがままなお店なので、あまり派手なことはしたくない」、という。それはそれで、とても納得したので、それ以後は個人的に出かけるようになった。
それから数年して全面改訂版を出すことになり、再度のお願いをしたところ思いがけず快諾していただき、とっておきの銘酒や手の込んだ料理、そして備前や志野、地元の陶芸家が作った食器や酒器まで、永井さんの徹底したこだわりぶりを取材することができた。おかげで、当時としては画期的な誌面に仕上がったように思う。
「ながい」の楽しみは、何といってもご主人選りすぐりの銘酒だ。とりわけ、日本酒通の垂涎の銘酒といわれる山形の「十四代」は、ほぼフル銘柄常時おいてある。東京から、わざわざ新幹線に乗って飲みに来たというお客と、カウンターの隣同士、日本酒談義を楽しむこともあった。先日は、「十四代」の中のでもとくに高級品になる「七垂二十貫」(ななたれ にじゅっかん)と名づけられたお酒をいただいた。いわれを説明するほどの紙幅がないが、蔵元の思い入れが深いことは、その酒瓶からも伺える。確かに、深い、深い味わいで、喉が唸った。
酒米や水の選択、経験や五感をフルに使って作り出す杜氏の技、そうして時の流れが仕上げるデリケートなお酒のおいしさ、材料にこだわった料理、器となる食器やぐい呑みの楽しみ方など、「ながい」で過ごした20年の歳月は、私にとって、「大人の学校」の生徒でもあった。
平成23年1月