キャリアの隠れ家
第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館
須坂市の東麓から千曲川に流れ込む百々川のほとりに、この2つの美術館は並んで建っている。作品展示棟は、それぞれ2つにわかれてはいるが、建物としては、一つの作品として設計されていて、建築デザインとして見飽きない。すでに、開館してから20年近くたつというが、建物も、展示作品も、とても個性的で魅力あふれる美術館なのだ。
この美術館の作品の中心は、須坂市の版画教育の基礎をつくった小林朝治のものだ。小林は、眼科医として県外で活動したが、後年須坂市に帰郷後は、町内で開業しながら、版画教育や創作活動にも没頭し、多くの人材を育成したという。世界的な版画家で知られる平塚運一は、その小林に招聘され、須坂市で版画教育にも尽力したという。そんな背景のある美術館なので、他では見ることができないこの二人の貴重な作品群が堪能できる貴重な存在だ。
平塚は、国内各地を旅し、多くの作品を残しているが、その一つと、鹿教湯温泉の斉藤ホテルで出会った。斉藤ホテルは、よく知られた老舗温泉旅館だが、平塚が、ある時期斉藤ホテル(当時は、斉藤旅館といった)に逗留し、当時では珍しかった木造3階だての旅館を作品にしていたのだ。斉藤ホテルのオーナーには、仕事でとても可愛がっていただいていたので、須坂市に平塚運一の美術館ができたときは、言葉ではあらわせない感慨をいだいた。
この美術館の周囲の自然環境も、魅力の一つだ。隣接して広々とした河川敷公園が広がっていて、百々川の緩やかな流れを見ながら、本を読んだりして2、3時間ゆっくり過ごす。日々の忙しさを忘れさせてくれる、とっておきの隠れ家だ。
平成21年11月