キャリアの隠れ家
第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。
長野にUターンし印刷会社に勤め始めてまもなく、坂城町の企業に、会社案内のプレゼンテーションのために訪れたことがあった。確か2時間ほど、クライアントの手ごわいご担当者と神経を使う時間を過ごし、建物の外に出たとき、目の前に里山の緑が鮮やかに跳びこんできた。「ああ、ここは長野なんだ」と、あらためてふるさとに戻ってきた実感を得た。
東京での仕事は、人間の群れと灰色のビルの合間を、ただただ移動するというだけの味気ないものだったが、ふるさとの目の前の新緑の山肌と澄み渡る青い空を見て、尖っていた神経のスイッチが音を立てて入れ替わり、素の自分にもどれたように思えた。
今でも多いときは、週に2、3度は訪れる坂城町で、ランチタイムなどにたまに立ち寄るティールームが、最近の、私の坂城町での隠れ家だ。アップルファームというお店で、ジャム製造のデイリーフーズが工場敷地内に併設したアンテナショップでもある。もちろん、自社製のジャムを販売するスペースがあるが、私の楽しみは、同社のジャムをたっぷりのせたトーストと、何種類かのジャムからお好みで選べるロシアンティーのランチセットだ。
今、坂城町の企業は、世界的経済不況の中、厳しい競争を強いられている。もともと坂城のみなさんは起業家精神にあふれ、それが、世界に名の知れた「ものづくり集積地」の原動力になったと聞く。冒頭にふれた会社も、戦後坂城町で創業され、私が初めてお伺いした当時、すでに世界的企業に発展していた。
そんな坂城町の企業にふさわしい意気込みを垣間見ることができる看板が、デイリーフーズの出入り口に建っている。
「ごくろうさまでした。商売を教えてください」
次回は、10月10日の予定です