home  → キャリアの隠れ家  → 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。「ながい」で出逢った「群雲」という名のぐい呑みは、間違いなく、私の人生を彩る大切な小道具の一つになるはずだ。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。「ながい」で出逢った「群雲」という名のぐい呑みは、間違いなく、私の人生を彩る大切な小道具の一つになるはずだ。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫


  「ながい」は、20年以上にもなる私の隠れ家なので、思い出がたくさんある。タウン情報誌の取材で出会ったことは、前項でも記したが、その出会いをさらに豊かにしてくれたものの一つに、ぐい呑みや徳利などの酒器との思い出がある。

  今でも「ながい」では、たくさんのぐい呑みから、お気にいりを選べるが、通い始めた当時、そんな粋な心遣いの店は、まだ珍しかったのでないか。ある日、たまたま手にとったぐい呑みに魅了された。いぶし銀のような色合い、野趣に飛んだ肌理を持つ器は、「群雲」(むらくも)という名があると、ご主人が教えてくれた。「中をのぞいて見て。丸く白濁した部分があるでしょ。それは、焼入れをしているとき、窯の天井から釉薬が一滴落ちて、底にたまって、そうなったんです。作家はそれを、凍てつく冬の夜空に浮かぶ雲に見え隠れする月の情景にたとえて、『群雲』と名づけたんでしょうね。お酒を注いで眺めると、いいお月見になりますよ。」作家は、信州新町に窯をもつ高名な方だという。なるほど、深い世界だ。陶芸にはまったく疎いが、永井さんの説得力と、手に包み込んだ時の存在感、指先に伝わる土の質感、口に流し込む時唇にあたるその肌触りに、以来、とりつかれた。

  ぐい呑みといえば、人生の達人と畏敬する社長さんから、昔、こんな話を聞いたことがある。「私は、気に入ったぐい呑みを買うと、しばらく里子に出すんだ。」怪訝な顔をする私に、「お店に置いておいて、他のお客さんに使ってもらえば、器に酒が沁みこんでいき、馴染んでくるんだよ。それと、いろいろなお客の唇にあててもらうことで、上縁のあたりも滑らかになるしね。1、2年して、その大事な里子を引き取りにいくのが、けっこう楽しみなんだ。」という。なるほど、こちらも、かなり深い…

  私もそろそろ、「里子」に出してある(つもりの)「群雲」を引き取りに行くタイミングを考えなければならない年齢になった。もう少し大切に育てていてね、と「里親」の永井さんに頼んではあるが、20年も育ててもらった「養育費」を、一体いくら持参すればいいのか、いまから心配だ。

平成23年2月