- 第1回 東山魁夷館(長野市 長野県立信濃美術館併設)
- (株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫
私にとって、美術館通いは、数少ないストレス解消のための手段です。長野県内には、数多い美術館が点在していますが、とりわけ訪れる機会の多いのが、長野市内の城山公園にある東山魁夷館(県立信濃美術館に併設)です。住まいから車で15分程度の距離にあり、便利であることもその理由でもありますが、実は、もう少し、個人的な理由があります。
昭和56年、郷里である長野に戻るまで、東京で8年ほど、サラリーマン生活を送っていました。ある銀行のPR誌の取材で、竹橋にある国立近代美術館を訪れた時、一枚の絵が、突然、私の前に現れました。その絵の前には、当然、私の方から、歩いて近づいたのですが、私は、「その絵が、私の前に、歩いて現れた」という感じのショックを受けました。その絵は、東山魁夷の「道」でした。以来、仕事などで、竹橋近くに行く時には、ちょくちょく立ち寄りました。その度に、「道」は、私にとって、なくてならない存在になりました。
当時、長野に帰郷しようか、東京に留まろうか、迷っていたこともあり、「道」を見ながら、自分の将来、家族の将来を、考えていたのでしょうか。それから1年ほどして、いわゆるUターンをしました。東山魁夷の「道」を一歩一歩あるきながら、私は、ふるさとに帰ってきたのかもしれません。
長野市に東山魁夷の美術館が開館した時、私は、不思議な運命を感じました。そして、その運命に、感謝しながら、月に1,2度は、美術館に通い続けました。画伯が平成11年になくなられてからは、東京にある「道」の代わりに、絶筆「夕星」の前に立ち、自分の過去と未来のありように、思いをめぐらしています。