キャリアの隠れ家
第12回 古書店
長野市西長野の勤務先にほど近い老舗の古書店に、昼食などの帰り道、ぶらり立ち寄ることがある。2年ほど前、藤沢周平の全集が欲しいと思い、丁度居合わせたご主人にそれとなく相談してみたところ、「少し時間をいただければ、お探ししましょう」といってくれた。それからしばらく忘れていたのだが、昨年末、「ご依頼の件、お売りになりたい方がでました。どうされますか?」と、思いがけない電話をいただくこととなった。
学生時代はよく、大学近くの古書店街に通ったものだ。新刊で読み終えた本を売り、それを「たね銭」にして、別の本を買うというようなことを繰り返していた。長野に帰ってから、さすがにそういうことはなくなったが、昨今は、古本専門のチェーン店まであって、結構利用者がいるようだ。興味をそそられ、一度は入ってみたが、私には、どうもなじめなかった。古本は、古本らしいほうがいい。店主の「鑑定眼」を通して値付けされ、一冊一冊に本としての使命感が息づいているような書棚こそ、古書店にふさわしい。そんな世界に包まれていると、古書店の書棚がいつの間にか私の自宅の書棚と重なりあい、浅学な個人的現実から解き放たれて、偉大な先達たちの知的世界の仲間入りができるような想いを抱く。
その人を知るには、書棚を見ればわかるといわれるが、さて、私の書棚を見た人は、どのように私を理解してくれることになるのだろうか。
平成22年2月