キャリアの隠れ家
第8回 鬼のいない里、鬼無里
長野から20キロほど北西に向かうと、春の水芭蕉や秋の紅葉で知られる鬼無里の里に出る。「鬼のいない里」と書いて「きなさ」と呼ぶが、平安時代にさかのぼる地名や神社仏閣などが、山深い集落のあちらこちらに点在していて、趣き深い。
もう25年ほど前になるが、仕事で、この村の活性化のお手伝いをした。その際に定められた村のシンボルマークや、「谷の都」というキャッチフレーズが、いまでも現役のまま集落のあちこちに掲げられていて、当時を懐かしく思い起こさせてくれる。四季の中でも、私は、特に秋の鬼無里が好きだ。
先日も、小学2年生になる孫をつれて、紅葉にはまだ少し早い鬼無里のドライブを楽しんだ。孫にとって、この鄙びた人里に興味をそそられることはなかったようだが、帰りがけに寄った温泉(鬼無里の湯)には、いたく満足したようで、湯に浸りながら、「極楽、極楽」と、大人びた物言いをして、私を驚かせた。自然と歴史豊かな山里は、大人や子どもを問わず、人の命を癒してくれるかけがえのない隠れ家なのだろう。