キャリアの隠れ家

キャリアの隠れ家

第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば、長野のライバルになるというこの町は、なるほど強敵だ。長野に無い物ばかりが並び、眩しいほどだ。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫



確か去年の5月の連休は、東京郊外の白洲次郎・正子夫妻の無相荘に行った。今年は、北に車を走らせて、金沢に向かった。長野から250キロほどなので、高速道路で約3時間ほどとみていたが、金沢東インターまでに渋滞があり、それでも30分遅れ程度で着いた。

インターを出て臨時の市内循環バスに乗り換える。観光シーズンのこの時期、市内は大渋滞で、駐車場探しは大変とのことだったので、少し面倒な気もしたが、やはりこの判断は大正解だった。お目当ては、金沢21世紀美術館館なのだが、途中近江町市場に急遽立寄ることにした。観光客でごったがえす狭い路地は、肩をぶつけながら歩かなければならないといえるほどの賑わい。有名店のお寿司屋さんの前は、20、30人の行列が並び、まるでお祭騒ぎのようだ。 魚好きの信州人には、きっと、堪えられないだろうな。

観光気分を満喫して、さらにバスで10分ほど、兼六園で降りると、目の前に低層の美術館の建物と、周囲を囲む広々とした緑の一角が見えた。この美術館のうりの一つでもある建築デザインは、パリのルーブル美術館別館の、ピラミット形の奇抜なデザインで有名になった建物デザイナーが手がけたという。

入場券を買うまでに30分、さらに人気作家の展示スペースへの入場も、行列して待たなければならない。現代美術は、観るだけでは難解でよくわからない。そこで、この美術館は、体験型の作品を多く収蔵するなどの工夫をしているようだ。中でも有名なのが、「スイミング・プール」と名付けられた作品で、プールの上に立つと、水中で衣服を着た人が遊んで見える。水槽への階段もあり、そこに入り今度は上を見上げると、逆に水底を見下す人々の姿が見えるという、楽しい仕掛けの作品だ。作家は、レアンドロ・エルリッヒという。

美術館のスタッフはボランティアなのか?老若男女が笑顔を忘れず、ガイド役を楽しんでいる様は、混雑している館内の清涼剤のように感じた。年間100万人以上の入館者がいるというが、確かにそれだけの入場者がいれば、ガイド役としての誇りもやり甲斐もでてくるだろう。小布施町の年間観光客が100万人前後だと聞いたが、一つの美術館で小布施町と匹敵する動員力があるのだから、すごい。

後6、7年後には、新幹線が金沢まで開通する。富山県内では、線路の橋げたの工事もずいぶん進んでいる。長野と金沢と観光客の誘客合戦がどうなるか、行政や商工団体などでもいろいろかまびすしくなってきたが、この賑わいぶりや活気をみると、長野に有利になるとは、悔しいけれど、どうにも思えない。

長野から1時間もかからず、美味しい魚があり、世界的な文化施設が集まり、グッチやザラのブランドショッピングができる金沢は、新しい文化やファッションに敏感な長野市民にとっては、まことに魅力的に映るだろう。金沢までの新幹線の全通で、長野に欠けているものが何かをはっきりと解ることになるとは、何か皮肉な気もするのだが…。

平成23年5月16日