キャリアの隠れ家

キャリアの隠れ家

第41回 師匠との出会いは、人生の至福の体験。27年ぶりの再会でも、昔と変わらず、たくさんの教えをいただいた。

株式会社カシヨキャリア開発センター
常務取締役 松井秀夫
 

 

先月、日本のコピーライターの草分けのお一人である川部重臣さんと、27年ぶりに再会した。

   初めての出会いは、確か昭和61年か62年頃だ。勤務先が4、5年先に創業100周年迎えることになり、それを期して新しい事業戦略や社員教育などに取り組むことになった際、コンサルタントとして、川部さんが招聘されたのだった。

  コピーライターとしてそのお名前をお聞きしていた程度だったが、私の前に現れた川部さんは、すでにコピーライターは「卒業」されていて、CI(コーポレートアイデンティティ)や販売促進などのプランナーとしてご活躍されていた。

  私も実務的なコピーライターとしてではなく、プランニングやプロデュースの仕事に比重を移したいと思っていたたこともあり、川部さんがお持ちのノウハウや仕事の進め方など、現在に至るまでの基盤を教えていただいたように思う。

  当時、川部さんに初めて見せていただいたものに、システム手帳がある。イギリスのファイロファックスというメーカー製で、分厚い黒皮のカバーに6穴のリングで手帳がとじられている。もちろん輸入されたもので、3万円か4万円程度するとお聞きした。

  感心したのは、その中に綴じられた手帳用紙で、1日1枚割り当てられていて、時間管理できるようにと1時間単位の目盛りがついている。「1枚200円程度するけれど、それで1日の時間生産性が上がれば、安いものです。」と仰っていたことを、今でも覚えている。その後の手帳ブームやタイムマネジメントの先がけであった。

  川部さんからは、もちろん企画の立て方やプレゼンの仕方、マーケティングという考え方など、仕事上のこともたくさん学んだが、それ以上に、川部さんから発せられる言葉、立ち振る舞い、読んでいる本、好きな芸術など、毎月1回来社されて講義をいただく時間のすべてが、私の皮膚にジワジワと染み込んでいった。
 
  内田樹さんが何かの著書で、「師匠は、いい悪いを超えた存在だから、そのすべてを学び取る覚悟がいる。だからこそ、人生の至福の出会いになる」という卓見を披露しているが、そういう意味でも、川部さんは、私の師匠である。

  川部さんから直接お教えいただいた期間は、1、2年のことだったが、以来、旧暦賀状やメールの交換が続いていた。そして、とうとう、27年ぶりの再会になったのだ。私が手がけ長野県内の進学広報誌に関心を持っていただき、所属されている日本広報学会の分科会となる「大学広報研究会」にゲストスピーカーとしてお声をかけていただいたのだ。

 研究会終了後は長野に帰るという私を気遣い、当日、随分早くから待ち合わせ、ゆっくり積もり積もった話をし、早めの食事までご馳走になった。研究会での報告があるので、乾杯は、ノンアルコールビールと相成った。「これも、今風でいいね」とニコニコされながら、最近のお仕事の企画書や調査資料をたくさんいただいた。

  師匠からは、幾つになっても、ただただ贈り物をいただくばかりだ。そのお返しを、そろそろしなければならない歳回りになってきたのだが、出来の悪い弟子としては、さて、いつになるやら。

平成23年6月20日
※写真は、毎年1月中旬にいただく「旧暦賀状」。今年は、私もそうした。師匠をまねするから「まなぶ」ともいうそうだ。